どのくらいのママが完全母乳育児で赤ちゃんを育てている? 粉ミルクでの育児にデメリットはあるの?
目次
新生児の栄養摂取は完全母乳育児、混合育児、完全ミルク育児の3種類があります
生まれたばかりの新生児は固形食も離乳食もまだ食べられないので、母乳かミルクを飲ませて育てる必要があります。赤ちゃんにどんな栄養素を与えるのかには大きくわけて3種類あり、ママの母乳を飲ませる完全母乳育児と、母乳と粉ミルクや液体ミルクなどを併用、混ぜて飲ませる混合育児、粉ミルクや液体ミルクなどの人口栄養だけを与える完全ミルク育児の3種類があります。
妊娠中のママはどのくらいが完全母乳育児を希望していたの?
回答項目 | 回答割合 |
---|---|
母乳で育てたい | 43% |
母乳が出れば母乳で育てたい | 50.4% |
粉ミルクで育てたい | 1.3% |
特に決めていない | 5.3% |
上の表は2015年に厚生労働省が調査した「乳幼児栄養調査」から抜粋したデータです。妊娠中のママが赤ちゃんの母乳育児についてどう考えているのかを調査した結果が上の数値です。「母乳で赤ちゃんを育てたい」、「母乳が出れば母乳で赤ちゃんを育てたい」を合計すれば93.4%のママが母乳育児をしたいと思っているのがわかります。
出産後のママはどのくらいが完全母乳育児なの? 混合育児や完全ミルク育児の割合は?
回答項目 | 生後1ヶ月 | 生後3ヶ月 |
---|---|---|
母乳育児 | 51.3% | 54.7% |
混合育児 | 45.2% | 35.1% |
完全ミルク育児 | 3.6% | 10.2% |
赤ちゃんの出産後に完全母乳育児ができている家庭は約50%ほど
では、赤ちゃんを出産した後のママは実際にどのくらいが完全母乳育児(完母)をしているのでしょうか。2015年の「乳幼児栄養調査」でのデータを上にまとめてみました。先ほど90%以上のママが母乳で赤ちゃんを育て児たいと考えていることを紹介しましたが、赤ちゃんが生後1ヶ月の時点で完全母乳育児(完母)ができている人は約50%となっています。母乳と粉ミルク、液体ミルクを上手に使い分けながら育児を行っている家庭も含めると、赤ちゃんに母乳を飲ませている家庭は95%以上というデータになりました。
赤ちゃんが生後3ヶ月になると完全ミルク育児の割合が高くなっていますが、ずっと母乳育児だとママのおっぱいが張って痛い、ママが病気の時に薬が飲めないなど大変なこともありますよね。赤ちゃんに少しずつ粉ミルクに慣れてもらえた方がパパにも授乳を任せられ、ママは楽になります。そういった事情などもあり、生後3ヶ月には完全ミルク育児の割合が増えているのでしょう。
出産後1年以内のママの就労状況での母乳・ミルク育児の比率
回答項目 | 1年以内に職場復帰 | 育休中 | 専業主婦 |
---|---|---|---|
母乳育児 | 49.3% | 56.8% | 56.8% |
混合育児 | 35.8% | 34.7% | 33.6% |
完全ミルク育児 | 14.8% | 8.5% | 9.6% |
同じ「乳幼児栄養調査」にママが赤ちゃんを出産後1年以内の就労状況で、母乳・ミルク育児の割合がどう変わるのかについても紹介されています。上の回答は生後3ヶ月時点での赤ちゃんの母乳・混合・ミルク育児の比率です。出産後1年以内に職場復帰や働きに出ると決めていたママは、生後3ヶ月時点での赤ちゃんの母乳育児の比率が少し低く、仕事復帰に向けて赤ちゃんに粉ミルクに慣れてもらうための準備をし始める人が多いと想像できます。
赤ちゃんは完全母乳育児がいいと言われるのはなぜ?
母乳は赤ちゃんの完全栄養食だから
日本では母乳で赤ちゃんを育てることがまだまだ主流となっています。筆者も完全母乳育児(完母)への憧れと、母乳に粉ミルクを足して赤ちゃんに飲ませる混合育児への罪悪感から、赤ちゃんの出産後は1日中母乳をあげ続けていました。しかし、1ヶ月検診の時にすっかり疲れ切った私をみて、お医者さんが「母乳にこだわらなくても、頑張りすぎなくていいよ」と声をかけられ、涙が出そうになったのを覚えています。
たしかに、母乳には赤ちゃんの成長に必要とする栄養(タンパク質、脂質、乳糖、ビタミン、ミネラル)やホルモン、酵素、免疫物質などたくさんのものを含んでいます。また、ミルクに比べて消化や吸収率が良いため、消化器官が未熟な赤ちゃんにとっても良いとされ、WHOや国も母乳育児を推奨しています。しかし、粉ミルクも母乳の栄養に近づけようとする改良がされており、赤ちゃんが飲みやすいように味も母乳に近くなっています。赤ちゃんが母乳を飲めないからといって、子供が元気に成長しないということはありません。
母乳はビタミンD含有量が少ない?
母乳は赤ちゃんの完全栄養食とご紹介しましたが、実は母乳には含有量が少ない栄養素もあります。母乳に少ない栄養素としてはビタミンDが話題になることが多いですね。赤ちゃんが摂る栄養でビタミンDが不足すると、乳幼児の骨格異常を引き起こす「くる病」にかかることがあります。ただ、ビタミンDは口から摂取しなくても、散歩などで日光を浴びていると体内で自然に合成される栄養素です。母乳に含有量が少ないからといって、過度に心配してサプリメントを上げたりする必要はありません。適度に赤ちゃんに日光浴をしていれば問題ないレベルです。
ビタミンDと母乳育児(日本ラクテーションコンサルタント協会)
「授乳・離乳の支援ガイド」で国は母乳育児を推奨している
ママの出産後の授乳に関する不安が大きいため、病院や公共機関でも適切な支援を行うようにと厚生労働省が発表しているのが「授乳・離乳の支援ガイド」です。「授乳・離乳を通して、母子の健康の維持とともに、親子の関りが速やかに形成されることが重要視される支援」、「乳汁や離乳食といった”もの”にのみ目が向けられるのではなく、一人一人の子どもの成長・発達が尊重される支援」することを基本としています。
厚生労働省の「授乳・離乳支援ガイド」のような育児支援活動の結果、母乳で赤ちゃんを育てることへの理解が進んだり、病院などでママが母乳をあげやすい環境が整ったりなど、母乳育児が改めて注目されつつあります。ただ、この「授乳・離乳支援ガイド」では母乳育児を推奨していますが、育児用ミルクを否定しているわけではありません。「授乳・離乳支援ガイド」の中でも「ミルクを選択する母親に対しては、十分な情報提供の上、その決定を尊重するとともに、母親の心の状態に十分に配慮した支援を行う」と紹介されています。
完全母乳育児をしているママは昔と比べて増えている
夫婦共働き世帯が増えたが、母乳育児の割合はどうなの?
下記表の通り、年々夫婦共働きの家庭は増えています。共働きで忙しい家庭だと、混合育児や完全ミルク育児の割合が増えそうですが、実際のところどうなのでしょうか? 「乳幼児栄養調査」に過去のアンケートデータをもとにひも解いてみましょう。
調査年 | 専業主婦世帯 | 共働き世帯 | 共働き世帯比率 |
---|---|---|---|
1985年 | 952万世帯 | 722万世帯 | 43.13% |
1995年 | 955万世帯 | 908万世帯 | 48.74% |
2005年 | 863万世帯 | 988万世帯 | 53.38% |
2015年 | 692万世帯 | 1,120万世帯 | 61.81% |
生後1ヶ月の赤ちゃんへの栄養方法調査(1985年、1995年、2005年、2015年)
回答項目 | 1985年 | 1995年 | 2005年 | 2015年 |
---|---|---|---|---|
母乳育児 | 49.5% | 46.2% | 42.4% | 51.3% |
混合育児 | 41.4% | 45.9% | 52.5% | 45.2% |
完全ミルク育児 | 9.1% | 7.9% | 5% | 3% |
生後3ヶ月の赤ちゃんへの栄養方法調査(1985年、1995年、2005年、2015年)
回答項目 | 1985年 | 1995年 | 2005年 | 2015年 |
---|---|---|---|---|
母乳育児 | 39.6% | 38.1% | 38% | 54.7% |
混合育児 | 32% | 34.8% | 41% | 35.1% |
完全ミルク育児 | 28.5% | 27.1% | 21% | 10.2% |
授乳・離乳の支援ガイドに1985年、1995年、2005年、2015年の4回に渡って赤ちゃんの栄養方法について調査したデータが掲載されています。この調査によると、生後1ヶ月、生後3ヶ月ともに母乳での育児の割合が2015年がもっとも高くなっています。1985年と比べて、夫婦共働きの割合が20%近く増えているのに赤ちゃんの母乳育児の割合が増えているは意外ですよね。母乳に対する考え方が変化してきたことで、栄養方法も変わってきていることが分かります。
赤ちゃんが生後3ヶ月のときの栄養方法を見ると、1985年、1995年では約28%前後の赤ちゃんは完全ミルク育児で育てられていたという結果が出ています。この頃生まれた赤ちゃんはすでに20代半ば~30代半ばに成長していますが、完全ミルク育児で育てられたから健康状態が悪いという話は聞きません。母乳育児にメリットがあるのはたしかですが、完全ミルク育児に罪悪感を抱く必要はないとわかりますよね。
よく言われるいろいろな母乳神話はウソ? ホント?
母乳神話とは、「粉ミルクはかわいそう、母乳が最良の栄養である」など、母乳育児が赤ちゃんにとって最善とされる情報や噂話のことを言います。果たして下記で紹介するような母乳神話は正しい情報なのでしょうか? 噂話や、なんとなく昔から言われているという曖昧な情報に惑わされずに、正しい情報を知っておきましょう!
完全母乳育児だと赤ちゃんは病気になりにくい? 粉ミルクは免疫力不足?
母乳を飲むことで赤ちゃんの免疫力がアップするという話も良く聞きますよね。出産後の数日間で出る初乳には「IgA」という細菌やウイルスの侵入を防ぐ免疫物質がたくさん含まれています。赤ちゃんはまだ免疫力が発達していないため、母乳を飲むことでこの「IgA」が「口や腸」を感染から守ってくれる効果があります。そのため、母乳は子供が病気になりにくいという情報は間違いではありません。しかし、赤ちゃんはママのお腹の中にいる時にも免疫物質をもらっているため、初乳が飲めないからといって病気にかかるわけではありません。
母乳はアレルギー疾患の予防になる?
母乳によるアレルギー疾患の予防についてはよく耳にする母乳の効果の1つではないでしょうか。しかし、実は、母乳を飲んでいるからといって子供のアレルギー疾患の発症を予防できるという医学的根拠はありません。過去の「授乳・離乳支援ガイド」では、母乳は乳幼児期のアレルギー疾患予防に一定の効果があるという研究結果があると紹介されていました。しかし、2019年3月8日に「授乳・離乳支援ガイド」の改定に関する研究会が開かれ、「生後半年間の母乳育児によるアレルギー疾患の予防効果はない」と明記されることが決まりました。
粉ミルクだと赤ちゃんが肥満になるリスクが上がる?
なんとなく粉ミルクだと赤ちゃんが太りやすいイメージはありませんか? 私も赤ちゃんの体重が中々増えずに粉ミルクを足すように指導されたことがあり、そのようなイメージを持っていました。しかし、完全母乳だけが肥満のリスクを下げるわけではありません。先程ご紹介した「授乳・離乳支援ガイド」改定に関する研究会にて、「母乳と粉ミルクを併用しても肥満リスクは上がらない」と明記することも決定しました。粉ミルクでの育児で、赤ちゃんが太ってしまうわけではありませんのでミルク育児中のパパママは安心してください。
母乳の質はママが食べた物で変わる? 乳腺炎は食べ物が原因?
母乳育児でママが恐れているトラブルの1つに乳腺炎があります。乳腺炎にかかってしまうと、胸に激しい痛みを感じたり、ひどい時は高熱を出してしまうことも。私も出産後すぐに軽い乳腺炎になりかけて母乳外来へ行ったところ、普段の食事内容について指摘をされました。しかし、実は「和食を食べた方が良い母乳がでる」や「乳腺炎になりやすい食べ物」といった情報の医学的根拠はありません。
栄養を運ぶ管と母乳を作る場所は繋がっておらず、ママが食べたものが母乳の栄養に直結するとは言えないのです。長期に渡って動物性タンパク質を摂取しないと、母乳のタンパク質やビタミンB12などが低下することはわかっていますが、授乳中の短期間での食事では母乳の栄養は変わりません。とはいえ、バランスの良い食事を心がけて、ママの体も大切にしてくださいね。
授乳中はコーヒーなどカフェイン成分がある飲み物を飲んではいけない?
赤ちゃんの妊娠中だけでなく、授乳中にもコーヒーを飲んではいけないと聞いてガックリしてしまったママもいるのではないでしょうか。赤ちゃんがカフェインを摂ると、落ち着きがなくなったり不眠になるなどの影響がでてしまう可能性があります。しかし、ママがカフェインを摂ってもその1%しか母乳には影響はありません。そのため過剰に摂取しすぎなければ問題はありません。WHOは授乳中は1日にカフェイン300mg、コーヒーならカップ3杯程度までなら問題ないと報告しています。ストレスをためない程度に適度に楽しみましょう。
粉ミルクでの赤ちゃんの育児のメリットは?
粉ミルクも液体ミルクも母乳に近い成分が含まれる
粉ミルクも液体ミルクも、法律で決められた成分規格により、限りなく母乳の成分に近づけられています。そのため、粉ミルクにも赤ちゃんにとって必要な栄養素はしっかりと含まれているのです。母乳があまり出ないママにはお医者さんは粉ミルクでの混合育児をすすめますが、これも十分な栄養素が含まれている証拠と言えます。
育児用ミルクメーカーのWebサイトにミルクに含まれる栄養素がしっかりと公開されているので、気になる方は確認してみてください。ただし、先ほど母乳神話の免疫力についての項目でご紹介した「初乳に含まれる免疫力をつける成分」はミルクには含まれていません。そのため、可能なママは、出産直後に赤ちゃんに少しでも母乳をあげてみるようにしてください。
粉ミルクや液体ミルクで授乳するメリットとしては
- ママの母乳が少ないときにも赤ちゃんに十分な栄養を与えることができる
- 体調が悪いときにもママが薬を飲むことができる
- パパが赤ちゃんに授乳することができる
- 赤ちゃんに母乳以外のものを口にするのに慣れてくれる
- 赤ちゃんがどのくらいの量を飲んでくれたのかがわかりやすい
- 離乳食をはじめたばかりの頃の赤ちゃんの栄養補助になる
などがあげられます。母乳と粉ミルクや液体ミルクを併用することで、ママの赤ちゃんへの授乳負担はグっと楽になります。母乳育児は素晴らしいことですが、必要以上に母乳育児にこだわらず、各家庭の状況に合わせて混合育児や完全ミルク育児も行っていただいて大丈夫です。
液体ミルクとは? 粉ミルクとどう違うの?
液体ミルクは2018年8月から日本での製造が認められたばかりで、まだ馴染みがないパパママがほとんどでしょう。海外では粉ミルクと同じようにポピュラーな育児用ミルクで、女性の社会進出が盛んな北欧などでは粉ミルク以上に液体ミルクを赤ちゃんの授乳のために選ぶママがいるほど、広く普及しています。液体ミルクに含まれる栄養成分は粉ミルクと変わりません。なぜ液体ミルクがこれほど注目されているのかというと、下記のようなメリットが挙げられます。
- 外出先などお湯が手に入らない場所でも赤ちゃんに授乳できる
- 粉ミルクのように準備に時間がかからず、すぐに赤ちゃんに授乳できる
- ストローが吸える赤ちゃんなら哺乳瓶の携帯が不要
- 常温で保存でき、災害時などにも活躍する
などです。粉ミルクを作るときに、よく振って粉ミルクをお湯に溶かしたと思っても、哺乳瓶の底に粉ミルクが残っていた経験はありませんか? 液体ミルクならこういったことはありません。筆者が赤ちゃんに授乳していたときに、液体ミルクがあったら…と今のママを羨ましく感じます。液体ミルクは今はドラッグストア、ベビー用品店など限られた場所でしか購入できませんが、コンビニやスーパーなどでもっと気軽に手に入るようになればいいですね。
まとめ:粉ミルク・液体ミルクも赤ちゃんの立派な栄養源です
この記事で紹介した各種データのとおり、母乳で赤ちゃんを育てるママはたくさんいます。しかし、粉ミルク・液体ミルクも母乳に近づけた成分を含んでおり、赤ちゃんにとっては立派な栄養源となることはご理解ください。販売が解禁されたばかりの液体ミルクはまだ馴染みがない方も多いかと思いますが、、災害時にお湯が使えない際などの救世主としても注目されているんですよ。赤ちゃんの母乳育児にとらわれず、ママの体調も気を使いながら、うまく粉ミルクや液体ミルクも活用してみてください。