2020年の教育改革での学習指導要領の変更点は? 小中高での教育がどう変わるかを徹底解説
2020年から始まる教育改革の背景とは?
いま、日本の教育には大きな転換がもたらされつつあります。その背景にあるのは、近年の激しい社会変化です。グローバル化や技術革新によって、私たちの生活は急激に変わり、未来を予測することもますます難しくなっています。そのような時代にあって、未知の変化に対応しながら豊かに生きるための力を子供達が身に着けること。それが今回の教育改革の根幹にあります。本記事では主に、文部科学省による学習指導要領に関する資料から、これからの教育について読み解いていきたいと思います。
学指指導要領の改訂
そもそも学習指導要領とは、教育課程の基準を定めたもので、国内すべての学校の教科書や時間割・授業内容はこれに従って組まれます。学習指導要領はおよそ10年ごとに改定が行われ、今回の学習指導要領の改定は、2020年度小学校での全面実施を皮切りに、2021年度に中学校、2022年度に高等学校と段階的に実施されていきます。また、幼稚園、保育園では幼稚園教育要領、保育所保育指針が改定され、2018年から実施されています。小学校以降の教育と一体的に教育を行えるような内容で改定されており、2020年から始まる小学校以降での教育改革とも関連しています。
学指指導要領の改訂に込められた思い
新しい学習指導要領のキャッチフレーズは、「生きる力―学びの、その先へ」。子供が何を学ぶかだけではなく「何ができるようになるか」を重視します。学んだことを知識だけで終わらせず、自ら考え行動して希望を実現し、未来の社会を切り開いていく子供達を育むという思いが込められています。そのために身につけるべき力は、後述する「3つの柱」からなる資質・能力として表現されます。
新学習指導要領での3つの柱とは?
これからの社会で生きる子供達に必要な力として、政府は次の「3つの柱」を掲げています。新しい学習指導要領では、すべての教科において、育成すべき資質・能力がこの3つの柱に再整理された構成となっています。
- 学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性など」
- 実際の社会や生活で生きて働く「知識および技能」
- 未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」
これらの「資質・能力」を、学校教育を通じて総合的に育み、人生の中で実践できることを目指します。
アクティブラーニングの実施
上記に述べたような資質・能力を育成するために、「どのように学ぶか」ということも、今回の学習指導要領改訂における大きなポイントです。そこで重視されるのが「主体的・対話的で深い学び」と定義された「アクティブ・ラーニング」という視点です。
- 主体的な学び……子供自身が興味・関心をもって学びに向き合い、進路などとの関連付け・見通しを持って取り組む
- 対話的な学び……生徒同士あるいは先生や地域の人たちとの対話などを通じて、それぞれの考えを広げ深めていく
- 深い学び……各教科などで学んだ視点や考え方を相互的に関連づけて、自分なりの発見や問題解決、新しいものの創造に結びつける
学習する動機や関心を子供が自ら持ち続け、ひとつひとつの知識を結び合わせ、豊かな発想や課題解決につなげていく、学びの姿をイメージできたでしょうか。この、子供自身が能動的(=アクティブ)に学び続けるための視点は、各教科でさまざまな具体的な方法をとって取り入れられます。
2020年からの教育改革で新設される教科
やはり気になるのは新しく導入される教科のことだという方も少なくないでしょう。小学校での英語やプログラミングは、本格実施を前に多くの学校で既に導入が進められており、話題に上ることも多いですよね。他にも新設あるいは変更される内容についていくつかご紹介します。
言語能力を育成する教育
言語能力の育成はすべての学習の基盤として位置づけられ、従来の読み書きといった領域から、「知識及び技能」と「思考力・判断力・表現力」という観点に再構成されました。国語科だけではなく、すべての教科で議論や発表、レポート作成などを通して言葉に関する力を育んでいきます。要となる国語科では、言語能力の重要な要素である語彙の指導徹底、インターネットなどの情報を適切に収集し再構成する練習、読書指導の充実などが挙げられています。
道徳教育
小学校および中学校で教科として「特別の教科 道徳」が新設され、各学年の発達段階を踏まえた学習内容が構成されています。教科書も導入されますが、決まった答えを学ぶのではなく、記述式課題や討論を用いた体験的・問題解決型の学習が主となります。テーマを自分のこととして考え議論する姿勢、異なる見方や価値観を理解する多角的な考え方などが大事になってくるでしょう。
外国語活動(3・4年生)
文部科学省は高校卒業までに外国語でコミュニケーションできる技能を育むことを目標とし、小中高一貫した外国語教育のビジョンを示しています。まずは小学校3・4年生で、外国の言語や文化に親しみコミュニケーション能力の素地を養うことを目指す、外国語活動が導入されます。英語の短い話を聞いておおよその意味をとらえたり、簡単なやり取りや発表に取り組んだりします。
外国語教育(5・6年生)
5・6年生で英語が教科となり、年70時間の授業数が設定されました。音声・文字・簡単な単語や慣用表現といった、「聞く」「読む」「話す」「書く」の基礎的な技能を総合的に学習します。知識を増やすだけでなく、簡単なやり取りや身近な題材を使った表現などを通じ、コミュニケーションの基盤を養う活動が行われます。
プログラミング教育の実施
小学校からプログラミング教育が必修となります。コンピュータに処理を行わせるために必要な「プログラミング的思考」を育む狙いで、各教科の中でこの思考を取り入れた授業内容が行われます。例えば算数では、図形をプログラミングによって描いてみるといった内容が例示されています。中学校でもプログラミングに関する学習がより充実した内容になります。
高校では「情報Ⅰ」が必修となり、全ての生徒がプログラミングに加えネットワークやデータベースといった情報処理の基礎を学ぶことになります。関連して、タイピングなどコンピュータ操作の基本的なスキル習得を目指し、ICT環境の整備が進められています。タブレットなどの学習用コンピュータ端末をひとり1台配備、また超高速インターネット接続率100%といった環境を政府は推奨しています。
理数教育
前回の改訂で授業数・内容とも強化されてきた理数教育。その結果を評価し、今回の改訂でより質の向上が図られています。観察や実験などを通して、見通しをもって科学的にものごとを探求する活動や、データ収集・分析による課題解決のための統計教育の充実を目指します。
伝統や文化に関する教育
日本という国が育んできた伝統や文化を学び、歴史や文化の尊重、地域社会あるいは国家への誇りと愛情などを醸成します。地理・歴史・現代社会といった社会科だけでなく、国語科で古典文学を、音楽科で郷土音楽や和楽器を、家庭科で和服を……といったように、各科目でそうした観点の学習があります。また道徳教育においても、郷土愛や先人への尊敬の念、日本人としての自覚、国家の発展や伝統継承、新しい文化の創造への貢献といったキーワードが挙げられています。
主権者教育
2018年、選挙権を持つ年齢が18歳に引き下げられたことは記憶に新しいのではないでしょうか。主権者である意識をもって自立し、他者と連携・協働して社会に参画していく力を、学校教育でも育んでいきます。高校では公民科に「公共」という必修科目が新設されます。
消費者教育
2022年には成年年齢が引き下げられ、18歳から保護者の同意なしに有効な契約を行えるなど、消費活動においてもより早い年齢から責任を担うことになります。自立した消費者として行動するために、契約の重要性、消費者の権利と責任などについて学びます。
特別支援教育
発達障害・学習障害など学習に困難を生じる生徒について、各教科において個別に指導内容や方法を工夫することなどが記載されました。読字や書字の困難に対する支援として、電子教科書やタブレットといったICTの活用も期待されます。また特別支援学級や通級(※)における個別指導計画の全員分作成、不登校や夜間通学などの場合について教育課程を規定するなどが行われています。※通級……普通学級に在籍しながら、一部特別支援教育を受けられる制度)
大学入試制度の変更
学習指導要領改訂とならぶ2020年度教育改革の大きなトピックである、大学入試改革。センター試験が廃止され、2021年1月に「大学入学共通テスト」が実施されることになります。従来と異なるのは以下のような点です。
- 英語試験におけるリスニングとリーディングの割合は50:50
- 英語試験に、民間の4技能試験のスコアを活用。2024年度からは共通テストの英語科目は廃止、民間試験のみとする(※民間試験の実施は延期)。
- 2024年度までは国語と数学のみ記述式の問題が出て、2024年度からは理科と社会が加わる(※記述式試験の実施は延期)。
※本記事を執筆している2019年12月時点では、上記の民間英語試験から当初予定されていたTOEICが撤退、さらに2020年度大学入試については民間試験活用の実施を見送ることが発表されています。また、国語と数学に記述式の問題を採用する案も、採点ミスの可能性などを考慮し、2021年1月の「大学入学共通テスト」からの実施は延期となりました。
この大学入試改革、および学習指導要領改定は、当然ながら今後高校入試にも大きく影響してくることになります。中でも英語の4技能重視への方向は明らかで、例えば東京都は2022年度から都立高校入試で英語のスピーキングテスト導入を発表しました。
改訂学習指導要領が目指すもの
繰り返しになりますが、今回の改訂は、冒頭に述べた社会情勢の変化を踏まえ、これからの社会で子供達が「生きる力」を総合的に育成することを目指すものです。それは未知の変化にも前向きに向き合い、主体的に見通しをもって考え行動し、協働して希望を実現するために知識を実践的に使いこなす力です。かつ、「社会に開かれた教育課程」が重視され、未来を担う子供達に必要な資質・能力は何かを社会と共有し、学校や家庭を初めとした社会全体で育んでいくことが望まれます。
まとめ
学習指導要領の広範に渡る記述を細部まで把握するのは難しいですが、基本的な考え方と今までとの違いについて捉えていただけたでしょうか。文部科学省は、子供達が必要とする資質・能力を育むために、家庭や地域での働きかけがとても大切であることも述べています。学校での学びについて、また学んだことを日常や将来に向けどのように活用できるかについて、家庭でも会話をしてみてはいかがでしょうか。