2020年4月~大学無償化がスタート。「高等教育の修学支援新制度」を解説!
大学無償化は少子化対策の目玉の一つ
急速なスピードで少子高齢化が進む日本。その一因として、子育てにお金がかかりすぎると感じているパパママは多いでしょう。政府はこの社会背景をもとに2017年12月、幼児教育無償化や私立高校の授業料無償化など「人づくり革命」を含む新しい経済パッケージを閣議決定しました。この「人づくり革命」の目玉となる政策の一つが、2020年4月から始まる「大学無償化」です。
大学無償化のもとになる制度は正しくは「高等教育の修学支援新制度」といい、短大や専門学校も対象になります。では、具体的にどのような制度なのか、詳しく見てみましょう。
大学無償化の社会的な背景
現在の日本では、大学などの高等教育を受けるためには経済的負担が大きく、低所得者ほど進学率が低くなっています。大学に進学したくても、経済的な問題から諦めざるを得ない家庭も多いでしょう。こうした教育格差はその後の生涯年収の格差にもつながり、その後の結婚や出産もままならないという格差の固定化を生んでいます。
今回の「高等教育無償化」は、低所得世帯の大学などへの進学を国が支援し、将来の収入の増加を図り、格差の固定化を解消することで、安心して子供を産み育てられる社会につなげるのが狙いです。このため、無償化の対象は所得制限のない幼保無償化などに比べ、かなり厳しい要件を設けています。
無償化の対象となるのは年収約380万円未満の家庭
高等教育の修学支援新制度にはまず所得制限があります。主に住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯とされており、たとえば両親・本人・中学生の家族4人世帯の場合の年収モデルで年収約380万円未満とされています。さらに、年収約270万円以上の場合には段階的に支援が減額される設計です。年収約270万円以上約300万円未満では2/3、年収約300万円以上約380万円未満では1/3に減額されます。また保有資産の条件もあり、片働きの場合は1250万円未満、共働きの場合は2,000万円未満となっています。
JASSOのホームーページやアプリの進学資金シミュレーターでは、無償化の対象になるかどうかをさらに詳しく調べられるのでチェックしてみましょう。
Androidアプリはこちら新型コロナウイルスの影響などで家計が急変した場合も申請可能
2020年3月26日に文部科学省から、新型コロナウイルス等によって急に世帯の収入が減るなど「家計が急変」した場合への救済策としてお知らせが発表されています。本来、大学無償化の対象は前年度の収入によって決まりますが、保護者の病気や事故、失業や災害などによって家計が急変する場合には、家計状況が変更したあとの所得を基準に年間所得を推計し、大学無償化の対象とします。
なお、本来は毎年4月と10月に限定されている申請申し込みも「家計の急変」の場合には、急変事由の発生後3カ月以内に随時申し込みが可能です。また、支給開始のタイミングも同じく4月と10月が基本ですが、家計の急変の場合には認定後に速やかに支給となっています。現在は対象外であっても、大学無償化の対象となる学生もいるので、急な家計の悪化で困っている場合には進学をあきらめずに調べてみてください。
新型 コロナウィルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ(文部科学省)
授業料の減免と給付型奨学金で無償化
今回の高等教育の修学支援新制度は、「授業料等の減免」と「給付型奨学金」という2つの制度でできています。それぞれ対象となる条件は同じですが、申請先や支給元が異なるので注意。原則として授業料の減免と給付型奨学金を同時に使うことで、所得に応じて学費や生活費の1/3~全額相当の支援を受けられ、学生が学業に専念することができる仕組みです。
学費を支援する授業料等の減免
一つ目の授業料等の減免は、授業料と入学金が保護者の所得に応じて減額または免除されるもの。金額は私立か国公立か、大学・短大・専門学校などの学校種別によって変わります。
授業料等減免の年間上限額(モデル年収約270万円未満)
※年収約270万円以上約300万円の場合は下記金額の2/3、300万円以上380万円未満の場合には1/3になります。
国公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|
入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 | |
大学 | 約28万円 | 約54万円 | 約26万円 | 約70万円 |
短期大学 | 約17万円 | 約39万円 | 約25万円 | 約62万円 |
高等専門学校 | 約8万円 | 約23万円 | 約13万円 | 約70万円 |
専門学校 | 約7万円 | 約17万円 | 約16万円 | 約59万円 |
生活費を支援する返済不要の給付型奨学金
もう一つの「給付型奨学金」は原則返済不要の奨学金で、生活費の支援として支給されるものです。進学先が私立か国公立なのか、自宅通学か自宅外通学(一人暮らし)かによって支給額は変わります。こちらは、日本学生支援機構(通称JASSO)が支給し、申し込みはJASSOホームページから行います。
給付型奨学金の年間給付上限額(モデル年収約270万円未満)
※年収約270万円以上約300万円の場合は下記金額の2/3、300万円以上380万円未満の場合には1/3になります。
国公立大学・短期大学・専門学校 | 私立大学・短期大学・専門学校 | |
---|---|---|
自宅通学 | 約35万円 | 約46万円 |
自宅外通学 | 約80万円 | 約91万円 |
支給の条件は所得制限だけじゃない!
今回の「高等教育の修学支援新制度」は、保護者の所得条件に加えて進学先の学校が対象校かどうか、学業の成績や浪人の有無など、さまざまな条件があります。また、支援を受けられたからといって油断は禁物。その後の学業成績や処分などによって、支援を打ち切られてしまったり奨学金を返済する必要が発生することもあります。
すべての大学・短大・専門学校が対象にはならない
現在、日本では少子高齢化の影響により高等教育を行う学校の中には、受験者が定員割れするなど経営に課題を抱える学校も増えています。今回の施策は、こうした経営に問題のある大学等の延命措置だと批判されており、「経営状況に課題がある学校法人」は対象からはずされました。
また、より実践的な教育を推進したいという産業界からの要望があり、「実務経験のある教員による授業科目が配置されていること」、「理事に産業界等の外部人材を複数任命されていること」なども条件になりました。この結果、2019年9月に発表された支援対象校は大学・短大の97%、高専は100%の学校、専門学校は62%の学校が対象(合計で約2,800校)となっています。
成績だけではない入学前の支給要件
これから大学進学などを控えた高校生にとって、進学先が広がる大学無償化。まず、注意したいのは浪人生であるかどうかです。今回の対象は「高校を卒業して2年の間までに大学等に入学を認められた者」となっています。つまり、3浪以上している場合には支援が受けられません。
また高校等の成績も判断材料になります。基準は各教科、科目等の評定の平均が3.5以上です。文部科学省は「高等学校在学時の成績だけで否定的な判断をせず、レポートの提出や面談等により本人の学修意欲や進学目的等を確認すること」としていますが、成績不振によって給付の対象にならないことはあります。対象となる低所得者世帯では、塾などに通うことが叶わないことも多く、成績が厳しい条件となる世帯もあるでしょう。
入学後は成績不振などで打ち切りも
入学時には無事に支援を認められても、入学後に支援を打ち切られるケースもあります。ペナルティには、即支援が打ち切られるケースと学業成績の向上に努力するよう指導する「警告」があります。なお、連続して警告を受けた場合にも支援が打切りになります。さらに場合によっては、支援打ち切り後に支給された授業料や奨学金を返還しなければならないケースもあります。
即支援が打ち切りになるケース
警告の対象となるケース
支援打ち切り後に返還を求められるケース
まとめ 大学無償化の問題点と今後
今まで経済的な理由から大学進学をあきらめていた低所得世帯にとっては、進学の大きな後押しとなる大学無償化。しかしもともとは安倍内閣の肝いりで始まった政策のために制度設計が乱暴で、教育界などからは「対象校が絞られるのは学問の自由の精神に反する」、経済的側面からは「対象者が限定的すぎて、とても大学無償化とは呼べない」、「中間所得世帯との負担の逆転現象が起きる」など、批判も寄せられています。
またすでに、国公立大学では国からの支援をもとに各大学独自で授業料減免制度を行っています。対象には中間所得世帯含まれますが、制度の対象基準が厳しくなることで、支援が減ってしまったり打ち切られる学生は、文部科学省によれば全国で約一万九千人に上る見通しとなっています。
このように問題を含みながらも始まる高等教育の修学支援新制度。ただし、進学をあきらめていた子供たちにとっては、一筋の光になることはたしかのはず。今後も制度がよりよく改正されていくことを願います。