食育基本法は何のためにあるの? 基本理念や目的、2015年の改正ポイントを紹介
目次
食育基本法ってどんな法律?
現在「食」に起きているさまざまな問題に対し、国をあげて「食育」を推進し計画的に取り組んでいます。この日本の「食」の問題を改善できるように制定された法律が「食育基本法」です。「食」と正しく向き合うことは、心身の健康や豊かな人間性を作るためにも大きく影響するとされており、国や地方自治体だけでなく、国民一人ひとりにも食育の推進が「責務」として定められています。「食育基本法」は2005年に制定された法律で、2015年に改訂、食育推進業務が内閣府から農林水産省に業務が移管されました。現在の日本の食育推進活動は「農林水産省」だけではなく、「文部科学省」、「厚生労働省」が協力しながら行われています。
食育基本法が制定された理由は?
ライフスタイルの変化に伴い「食」に対しての正しい知識を持たない人が増えてきました。食生活の乱れによる健康状態の悪化などは、食を見直すことで防ぐことができます。「食育基本法」は国民の健康を保つために食への意識を見直すことを目的としています。食は人間を作るうえでの基本です。そのため保育園でも「食育」を行うよう「保育所保育指針」で定められています。
今、日本の「食」に起きている問題
では身の回りで起きている具体的な問題とは何でしょうか? 以下よりいくつかご紹介します。
栄養の偏りや不規則な食事
年齢、性別で見る朝食を取らない割合
年齢区分 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 30.6% | 23.6% |
30代 | 23.3% | 15.1% |
40代 | 25.8% | 15.3% |
50代 | 19.4% | 11.4% |
60代 | 7.6% | 3.7% |
70歳以上 | 3.4% | 3.8% |
※厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2017年) より
成人の1日の野菜の平均摂取量
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 219g | 199g |
30代 | 322g | 317g |
40代 | 461g | 517g |
50代 | 392g | 472g |
60代 | 566g | 620g |
70歳以上 | 754g | 955g |
※厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2017年) より
忙しい毎日の中でバランス良く規則正しく食事をとることは難しいですね。よく問題視されるのは「朝食を食べない」「野菜不足」という2点です。上のデータを見てみると、朝食を食べないのは20代の男女が最も多く、特に男性の約3割は朝食を食べていません。
また、厚生労働省が定めた理想の野菜摂取量についても、20代、30代は男女ともに1日350g以上という基準値には達していません。特に20代の男女の野菜不足は深刻です。
肥満や生活習慣病の増加
肥満者の割合
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 26.8% | 5.7% |
30代 | 32% | 14.2% |
40代 | 35.3% | 17.4% |
50代 | 31.7% | 22.2% |
60代 | 34.1% | 25.8% |
70歳以上 | 25.7% | 26.5% |
※厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2017年) より BMI25以上を肥満者と定義
糖尿病が強く疑われる者の割合
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 1.7% | 0% |
30代 | 3.3% | 0.6% |
40代 | 8.1% | 3.1% |
50代 | 14.6% | 5.1% |
60代 | 19.8% | 10.8% |
70歳以上 | 25.7% | 19.8% |
※厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2017年) より
男性の場合30~70代の約3割、女性では60代以上で肥満の割合が多くなっており、全体的にその数は増加傾向にあります。また、糖尿病の疑いがある人は男性で50代以上、女性も60代以上から急に増える傾向にあります。このような生活習慣病の原因には運動不足もありますが、食生活の乱れが大きく関係しています。投薬での治療も可能ですが、根本的に改善するには食生活を整えることがとても大事になるのです。
孤食の増加
家族と一緒に食事を食べる頻度
回答項目 | 朝食 | 夕食 |
---|---|---|
ほとんど毎日 | 57.8% | 66.5% |
週に4~5日 | 5.6% | 11% |
週に2~3日 | 8.8% | 12.8% |
週に1日程度 | 5.3% | 3.8% |
ほとんどない | 22.2% | 5.5% |
※農林水産省「食育に関する意識調査」(2016年) より
「孤食」という言葉をご存知でしょうか? 最近社会課題として取り上げられるようになった言葉で「ひとりでご飯を食べること」を指しています。朝は家族全員が忙しいからか、朝食を1人で食べることが多いという回答者が多いのが気にかかります。
孤食の問題は、ひとりだと好きなものばかりを食べ栄養バランスが偏った食事になってしまう、自分の好きな時に食事をするため食事の時間が不規則になってしまう点があげられます。こういった食生活は肥満など生活習慣病の問題にもつながります。特に子供の孤食が問題で、家族とのコミュニケーションが減ることで精神的に不安定な状態となり、社会性や協調性が欠落してしまう可能性も示唆されています。
食品の安全性への不安
最近では汚染物質による食品への不安が多く見られ、この食品の安全性を改善することも必要です。自分だけでなく子供や家族にも安全な食事を提供したいという思いからどうしても慎重になってしまいます。
日本の食料自給率の低さ、食品の海外輸入への依存
日本の食料自給率は先進国の中で最低レベルの38%(2017年のカロリーベースでの数値)で、海外からの輸入品は当たり前のように食卓の一部となっています。また食料自給率の低下も問題となっているため、自給率を上げ国内での安全基準を満たした食料を安定的に確保していくことが重要です。
食育基本法の基本理念(第2条~第8条)
ここからは「食育基本法」の内容について触れていきます。基本理念には「食育基本法によって何を目指すのか? 」という目的が書かれています。わかりやすくご紹介しましょう。
食育基本法第2条:国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成
「食育」の目的は人の健康と人間形成です。そのため国民が「食」に関する知識をつけ適切な判断ができることが大切であり、健全な食生活を生涯継続することが必要です。
食育基本法 第3条:食に関する感謝の念と理解
「食育」を推進する前提として「食生活は自然の恩恵の上に成り立っていること」「食には多くの人が関っておりその人々により支えられていること」という感謝の気持ちを忘れずに、「食」にまつわる各活動への理解が深まるよう配慮しなくてはなりません。
食育基本法 第4条:食育推進運動の展開
「食育」の活動は国民や民間団体などの自発的な意思を尊重しています。地域の住民や企業と協力しながらみんなで一緒に推進し、一部の地域だけでなく全国に展開されることが必要です。
食育基本法 第5条:子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割
「食育」の重要性について、家庭でパパママがしっかりと理解するだけでなく、子供の教育や保育に関わる学校や保育園などでも積極的に食育を推進していかなければなりません。
食育基本法 第6条:食に関する体験活動と食育推進活動の実践
「食育」には食料の生産から消費までを知る体験活動が必要で、家庭・学校・保育園・地域などあらゆる機会と場所を利用して行います。また食育を推進するための活動を国民自らが実践することで「食」への理解を深めましょう。
食育基本法 第7条:伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献
日本の伝統的な食文化や地域ならではの食生活を尊重し、環境に配慮された食料の生産や消費を行うことが必要です。また日本の食料事情をしっかり理解し、生産者と消費者が交流を増やしていくことで農山漁村の活性化と日本の食料自給率の向上を目指していかなければなりません。
食育基本法 第8条:食品の安全性の確保等における食育の役割
「食育」では食品の安全性をはじめとする「食」に関して幅広く情報提供し、そのことについて意見交換を行えるような環境作りが必要です。それにより食への知識と理解を深め健全な食生活の基礎を作り、この活動を国際的な連携のもと行っていきましょう。
食育基本法の施策(第19条~第25条)
上記の目的を果たすために国や地方自治体が具体的に行っている内容が書かれているのが食育基本法の施策です。こちらもわかりやすくご紹介します。
食育基本法 第19条:家庭における食育の推進
パパママや子供が「食」に関心を持ち健全な食習慣を確立できるよう「親子で参加する料理教室や食習慣を学びながら食を楽しむ機会の提供」「健康美や適切な栄養管理に関する知識の啓発や普及、情報の提供」「妊産婦に対する栄養指導」「子供に対する発達に応じた栄養指導」などを行います。
食育基本法 第20条:学校、保育所等における食育の推進
学校や保育園で効果的に「食育」が推進できるよう「学校・保育園での食育推進指針の作成支援」「食育の指導にふさわしい教職員の設置」「指導者の食育への意識啓発指導体制の整備」「学校・保育園や地域の特色を生かした学校給食の実施」「農場等での実習、食品の調理、食品廃棄物の再生利用などさまざまな体験活動の実施を通した食の理解促進」「過度の痩身または肥満への知識啓発」などを行います。
食育基本法 第21条:地域における食生活の改善のための取組の推進
地域の栄養・食習慣・食料の消費などに関する食生活の改善を推進し、生活習慣病を予防して健康を増進するために「健全な食生活に関する指針の策定及び普及啓発」「食育の専門知識を持つ人の養成と活用」「保健所・市町村保健センター・医療機関などでの食育の普及と啓発」「医学教育での食育指導の充実」「食品関連事業者にむけた食育推進への活動支援」などを行います。
食育基本法 第22条:食育推進運動の展開
国民・教育関係者・農林漁業者・食品関連事業者をはじめとした関連企業が、地域特性を活かし全国で情報交換をしながら「食育」の活動ができるよう「食育普及のための行事の実施」「食育を重点的かつ効果的に推進するための期間の設定」などを行います。 また食育の推進にあたっては、食育に携わるボランティア団体を尊重し連携しながらその活動を支援します。
食育基本法 第23条:生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等
生産者と消費者との交流を促進することで、食品の安全性の確保や食料資源の有効な利用の促進、国民の食に対する理解と関心の増進を図ります。そして環境に配慮した農林漁業の活性化のために「農林水産物の生産・食品の製造・流通における体験活動の促進」「地元の農林水産物を地域内の学校給食に提供するなど地産地消を促進」「食品廃棄物の減少や再生利用」などを行います。
食育基本法 第24条:食文化の継承のための活動への支援等
伝統的な行事や作法と結びついた食文化、地域の特色ある食文化などを継承していくための啓発や知識の普及などを行います。
食育基本法 第25条:食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査、研究、情報の提供及び国際交流の推進
すべての世代の国民が適切な食生活を送れるよう、食品の「安全性」「栄養」「食習慣」「食料の生産流通消費」「食品廃棄物の発生」「再生利用の状況」などについて調査・研究を行い、その情報を迅速に提供します。また同様に海外における食品の「安全性」「栄養」「食習慣」などの情報収集を行い「食育研究者の国際交流」「食育活動の情報交換」など国際交流を推進していきます。
第3次食育推進基本計画で定められた5つの課題
「食育推進基本計画」とは「食育基本法」に基づいて基本方針や目標を記した行動計画のことを言います。その中で重点的に取り組むとされている食に関する5つの課題を紹介します。
日本の食の課題1:若い世代を中心とした食育の推進
20~30代の若い世代は食に関する知識が乏しく、また意識も低いことが問題です。そのため若い世代が楽しく「食」に興味を持てるようSNSで情報を発信したり、イベント形式でハードルを下げ食に触れる機会を増やしていこうとしています。
日本の食の課題2:多様な暮らしに対応した食育の推進
今増えつつある「孤食」の問題を解決するため、複数で食べる機会を推奨しています。一緒に料理を作ったり後片付けをするなどコミュニケーションを取りながら食事を楽しむ「共食」を推進し、子供食堂など誰かと一緒に食事ができる場所を提供するなどの活動を行っています。
日本の食の課題3:健康寿命の延伸につながる食育の推進
健康寿命とは「介護などを必要とせず健康に生きられる期間」のことを言います。平均寿命と健康寿命の差分が大きいということは「一人で生活できない期間が長い」ということを意味しています。健康寿命を延ばし平均寿命との差を縮めるため、生活習慣病の予防や改善が重視されています。
日本の食の課題4:食の循環や環境を意識した食育の推進
生産者・消費者間の距離を縮めることが、食品ロスへの意識を高めることにつながると考えています。
日本の食の課題5:食文化の伝承に向けた食育の推進
農林水産省が発表した食育に関する意識調査報告書(2018年3月)によると「地域や家庭で受け継がれてきた料理や味、食べ方・作法を受け継いでいるか」という質問に対し、約4割の人が「受け継いでいない」と答えています。世界にも認められた日本の「食」の伝統文化が継承されず廃れてしまうことが懸念されています。この数値を少しでも改善するため日本食文化の魅力発信やイベントなどが積極的に行われています。
まとめ:まずはパパママが食に関心を持つことから始めましょう
「食育」は生きる上でのすべての基本とされています。子供の成長にも大きく影響する「食」についてパパママは正しい知識を付けて子育てをしていきましょうね。