働く妊婦を守る「母性健康管理指導事項連絡カード」とは? 対象になる症状や措置を解説
目次
「母性健康管理指導事項連絡カード」(母健連絡カード)とは?
切迫流産やひどいつわりなどで、仕事の制限や自宅安静を指導されたことがあるママもいるのでは? 休みたいけど会社には言いづらい…そんなときに役立つのが「母性健康管理指導事項連絡カード」(通称:母健連絡カード)です。
「母性健康管理指導事項カード」は、働く妊婦が主治医から受けた指導の内容を、勤めている会社に正確に伝えるもの。「カード」という名前ですが、1枚の書類のようなものです。しっかり理解して、活用しましょう。
「母性健康管理指導事項連絡カード」(母健連絡カード)はどんなときに必要?
「母性健康管理指導事項連絡カード」は、仕事をしている妊婦が体の不調を会社に正確に伝えるときに使います。医師が記入する「診断書」に準じた正式な書類で、妊娠に伴う体調不良によって、勤務時間の短縮や時差通勤制度などの必要があることを会社に伝えることができます。
妊婦はつわりなどの体の不調による、医師からの指導を会社に伝えることができ、会社は医師からの指導に従って勤務時間の短縮などの措置をする必要があります。妊婦はただでさえ、検診などで会社を休む機会が多く、なかなか仕事量の緩和や変更を言い出しづらいもの。このカードを活用することで、母体をしっかり守ることができます。
「母性健康管理指導事項カード」(母健連絡カード)はどうやって入手するの?
「母性健康管理指導事項連絡カード」は、医師から事業主(会社)あてに発行される書類です。まず医師からつわりによる安静の指示や「切迫流産」などの診断をされた場合に発行されます。また、妊婦側から相談して医師に発行を依頼することもできます。妊娠による症状が出で仕事に影響が出ていたり、仕事の内容によって母体や胎児への影響に不安を感じるときには、積極的に相談してみましょう。書式は多くの母子手帳に記載されているものを拡大コピーして使うほか、以下の厚生労働省のホームページからダウンロードすることもできます。妊婦健診を受けられる病院では、すでに書式を準備しているところも多いでしょう。
「母性健康管理指導事項カード」(母健連絡カード)発行の料金は?
「母性健康管理指導事項連絡カード」は保険適用外の書類です。診察とは別に費用がかかるので注意しましょう。母性健康管理指導事項連絡カードの費用は病院によって変わってきます。ただし多くの病院では、診断書よりは費用が安くなっています。一度かかりつけの病院や勤務先に確認をしてみてから、記入してもらうといいでしょう。
ただしまれに勤務時間の変更などの措置は「診断書の提出が必要」と社内規定で定めている会社もあります。勤務先から診断書を指定された場合には、診断書の提出が必要になります。
「母性健康管理指導事項連絡カード」の対象となる症状や診断は?
妊婦と赤ちゃんの体を守る「母性健康管理指導事項連絡カード」には、具体的に対象となる症状や診断、標準的な措置が記載されているのを知っていますか? それぞれ具体的に見てみましょう。
「母性健康管理指導事項連絡カード」(母健連絡カード)に記載されている症状・診断
「母性健康管理指導事項連絡カード」には、妊娠に伴う症状や診断名が記載されており、それぞれに標準措置が指定されています。医師は該当する項目に〇をつけて指導を行います。代表的なものは以下の通り。このほかにも「妊娠前から持っている持病の悪化」や妊娠中にかかりやすい「静脈瘤」「痔」「腰痛」「膀胱炎」、そして双子などを妊娠した際の「多胎妊娠」などがあります。
症状など | 標準措置 | ||
---|---|---|---|
つわり | 症状が著しい場合 | 勤務時間の短縮 | |
妊娠悪阻 | 休業(入院加療) | ||
妊娠貧血 | hb9g/dl以上11g/dl未満 | 負担の大きい作業の制限または勤務時間の短縮 | |
hb9g/dl未満 | 休業(自宅療養) | ||
子宮内胎児発達遅延 | 軽症 | 負担の大きい作業の制限または勤務時間の短縮 | |
重症 | 休業(自宅療養または入院加療) | ||
切迫流産(妊娠22週未満) | 休業(自宅療養または入院加療) | ||
切迫早産(妊娠22週以後) | 休業(自宅療養または入院加療) | ||
妊娠浮腫 | 軽症 | 負担の大きい作業、長時間の立作業、同一姿勢を強要される作業の制限または勤務時間の短縮 | |
重症 | 休業(入院加療) | ||
妊娠蛋白尿 | 軽症 | 負担の大きい作業、ストレス・緊張を多く感じる作業の制限または勤務時間の短縮 | |
重症 | 休業(入院加療) | ||
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症) | 高血圧がみられる場合 | 軽症 | 負担の大きい作業、ストレス・緊張を多く感じる作業の制限または勤務時間の短縮 |
重症 | 休業(入院加療) | ||
高血圧に蛋白尿を伴う場合 | 軽症 | 負担の大きい作業、ストレス・緊張を多く感じる作業の制限または勤務時間の短縮 | |
重症 | 休業(入院加療) |
「母性健康管理指導事項カード」(母健連絡カード)に記載がない症状でも措置は可能
「母性健康管理指導事項連絡カード」には妊婦が経験する体調不良や診断のほとんどがカバーされていますが、妊娠の症状は人によってさまざま。事業主(会社)は、たとえ「母性健康管理指導事項カード」に記載がない症状でも、医師から指示事項があったことを女性労働者から報告を受けた場合には、適切な措置を取ることが必要です。
「母性健康管理指導事項カード」でどんな措置を受けられるの?
「母性健康管理指導事項カード」には、それぞれの症状・診断に対する標準措置のほかに「妊娠中の通勤緩和の処置」と「妊娠中の休憩に関する措置」という指導項目が設けられており、適宜〇をつけるようになっています。実際の運用ではどのような措置が取られているのか、具体的に見てみましょう。
母性健康管理指導事項連絡カードの措置1:休業とは?
切迫流産(妊娠22週未満)、切迫早産(妊娠22週以降)、妊娠悪阻の場合、自宅療養や入院加療などのため休業の指導を受けることがあります。突然の休業は働いている人にとって大変なものですが、妊婦の健康と赤ちゃんの健康に重大に関わってきますので、医師からの指導があった場合は早急に対処するように心がけましょう。
最近では、自宅でもできる仕事が増えていますが、自宅療養の場合はどの程度動いていいのか、しっかり医師に確認しましょう。また、第二子妊娠の場合などには「入院」と言われても、なかなか難しいことも…。切迫流産の場合などには、「結局、出産するまでずっと入院だった」というケースも多いです。職場には心苦しいですが、母子の健康のためにも、動きすぎたり、焦って早期復帰したり休業を先延ばしにしないようにしましょう。
母性健康管理指導事項連絡カードの措置2:業務の軽減とは?
妊娠浮腫や妊娠蛋白尿、妊娠高血圧症候群などの症状がみられるときは負担の大きい作業や、長時間の作業、ストレス・緊張を多く感じる作業の制限や勤務時間の短縮などの措置を受けることを指導されることが多くあります。「負担の大きい作業」とは以下のように規定されています。
- 重量物を取り扱う作業 継続作業:6~8kg 断続作業:10kg以上
- 外勤等連続的歩行を強制される作業
- 常時、全身の運動を伴う作業
- 頻繁に階段の昇降を伴う作業
- 腹部を圧迫するなど不自然な姿勢を強制される作業
- 全身の振動を伴う作業 他
また、労働基準法第65条第3項では、「働く妊婦が請求した場合には、事業主(会社)はほかの軽易な業務に転換させなければならない」としています。ただし、具体的な配置転換先については、企業の事情により大きく異なるため、企業内の産業保健スタッフや上司等と相談して、対応方針を決めていくとしています。
母性健康管理指導事項連絡カードの措置3:休憩とは?
休憩の措置とは、通常は1時間程度の休憩時間を増やしたり伸ばしたり、休憩の時間帯を変更することです。妊娠中の女性の健康状態には個人差があり、また、作業内容も企業や個々人で異なるため、法律では休憩回数を定められていません。このため、個々の状況に応じて、妊婦が勤務先の人事や上司、管理部門のスタッフと話し合って決めるとされています。
母性健康管理指導事項連絡カードの措置4:通勤緩和とは?
つわりがひどいなどの症状の時には、満員電車で気分が悪くなったりすることもありますよね。立っていることも辛いのに、電車の揺れとギューギューの電車の中では症状が悪化することも多いもの。母性健康管理指導事項連絡カードを会社に提出することで、フレックスタイム制を使った通勤や30~60分程度の時差出勤、車による通勤を認めてもらえることがあります。医師は細かな時間までは決めないことが多いので、具体的な措置は会社と妊婦とが話し合って決めます。
「母性健康管理指導事項連絡カード」を利用する
対象となる症状・診断や措置の内容がわかったら、いよいよ利用したいですよね。実際に勤務先に提出したあとには、どのような対応がとられるのでしょうか。会社側の動きなども含めて見てみましょう。
措置の期間はあくまで目安
母性健康管理指導事項連絡カードでは、「措置の必要な期間」について1週間・2週間・4週間・その他という4項目に分けられており、それぞれ日付を医師が記入するようになっています。ただし、記載された期間が過ぎたからといって措置がなくなるとは限りません。症状が続いていれば、引き続き休業などの指導がされることも。勤務先の会社に伝える際には、期間が延びる可能性があることも併せて伝えておきましょう。
会社は母健連絡カードの指導に従う必要がある
男女雇用機会均等法では、事業主の義務として、妊娠中の女性労働者が妊婦健診などを受けるための時間を確保し、妊婦が医師等の指導事項を守ることができるように勤務時間の変更などの措置を実施しなければならないと定めています。また、平成18年に改正された男女雇用機会均等法によって、こうした措置が講じられず、是正指導にも応じない場合、企業名公表の対象となっています。
「母性健康管理指導事項連絡カード」を提出しても、措置が実行されない場合には法令違反であることを伝える、各都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談するなど、あきらめずに母体を優先しましょう。
「母性健康管理指導事項連絡カード」の措置による休業中の給料はどうなる?
法令では入院や自宅療養で休んだ時間の給料について、規定はありません。勤務先によって対応は異なりますので、勤務先の就業規則を確認してみましょう。厚生労働省では、「母性健康管理に関する措置が円滑に講じられるためには、あらかじめその具体的な取り扱いや手続きについて就業規則等に規定しておくことが重要」としています。
実際の運用としては、休業の当初は有給休暇を消化し、有休が足りなくなるようであれば傷病休暇とするケースも多いようです。傷病休暇が取得できれば、傷病手当が健康保険組合から支給されます。ただし支給は通常の給与などよりも遅いので注意しましょう。
なお、母性健康管理措置を受けたことで生じた減給や賞与などの不当な扱いについては、男女雇用均等法第9条で禁止されています。企業から解雇や不利益な扱いを受けた際は、各都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談してみましょう。ただし、賞与の支給などに出勤率が規定されている場合には、労働災害以外の理由で傷病休暇を取得することで支給額が下がることがあります。納得いかない場合には、勤務先の人事などにきちんと説明してもらいましょう。
「母性健康管理指導事項連絡カード」は派遣社員やパートも対象
母性健康管理指導事項連絡カードは、妊婦さんの健康に直接関わるものです。働き方に関わらず、パートタイムで働く妊婦さんや派遣社員で働く妊婦さんも対象に含まれます。派遣社員として働く妊婦さんについては、派遣元の事業主と派遣先の事業主のどちらの事業主にも措置の義務があります。
「母性健康管理指導事項連絡カード」がなくても業務負担の軽減は可能
企業は妊婦からが主治医等による指導事項があったことを伝えられた場合、「母性健康管理指導事項連絡カード」の提示がなくても適切な措置をとることが必要です。ただし、体調不良を抱える妊婦にとって指導の内容を明確に伝えるのは難しいもの。できれば母性健康管理指導事項連絡カード」を提出したほうがスムーズでしょう。
また、「通勤緩和および休憩の措置」に関しては、医師等の具体的な指導が確認できなくても、女性労働者からの申し出があれば、通勤事情や作業状況を勘案し、適切な対応を図ることが望ましいとされています。
母性健康管理指導事項連絡カードをしっかり利用しよう!
働く妊婦は今まで一生懸命に働いてきた人ほど、無理をしがちですよね。自分の身体とお腹の赤ちゃんとよく相談して、症状がつらいときは母性健康管理指導事項連絡カードを速やかに利用しましょう。妊娠中は通常の体のときとは全く違った体質になったり、情緒不安定になったり、疲れやすくなったりするものです。お腹の赤ちゃんと一緒にいられる約40週間という少ない時間を有意義に過ごせるように、母性健康管理指導事項連絡カードの存在を覚えておいてくださいね。