母子家庭を救う児童扶養手当とは? 児童手当とは違う制度なの?
母子家庭の貧困を救う児童扶養手当とは?
離婚や死別、未婚で出産するシングルマザーなど、ひとり親家庭はふたり親家庭に比較して、貧困におちいりがちです。日本では母子家庭では 51.4%、 父子家庭では 22.9%が厚生労働省公表の貧困線を下回っており、とくに母子家庭の貧困率が深刻になっています。
日本では、こうしたひとり親家庭の生活の安定と自立を助け、子供の健全な育成を図ることを目的に、昭和36年度に「児童扶養手当」制度が創設されました。離婚率の上昇などにともなって現在では、97万3188人(平成30年度3月末時点)が受給しています。
児童扶養手当とは、どんな人が対象になって、いくらもらえるのでしょうか。詳しく解説します。
児童手当と児童扶養手当はまったく別の制度
「児童手当」と「児童扶養手当」は名前は似ていますが、まったく別の制度です。まず大きく違うのは、支給対象者です。「児童手当」は、中学修了までの子供がいる家庭(養育している人)に支給されます。所得制限はありますが、所得制限以上であっても特例給付が月額5000円支給されます。「児童扶養手当」の対象は、おもにひとり親家庭のみで、年収約365万円(親1人・子供1人の場合)の所得制限以上の場合には、支給されません。
もう一つの違いは、支給期間です。「児童手当」の支給期間は対象となる子供が中学校を卒業するまでです。(子供が15歳に達した日のあとの最初の3月31日になるまで)ひとり親家庭が対象の「児童扶養手当」の対象期間は、子供が高校を卒業するまで(18歳に達する日以後の最初の3月31日まで)で、子供が障害児の場合は20歳未満まで延長されます。
なお、児童手当と児童扶養手当は目的が違いますので、同時に受給することができます。
児童手当と児童扶養手当の主な違い
児童手当 | 児童扶養手当 | |
---|---|---|
対象 | 中学校卒業までの子供がいるすべての家庭 | ひとり親家庭(離婚・死別・未婚)父または母が一定の障害の状態にある家庭 |
支給期間 |
中学校卒業まで (15歳の誕生日後の最初の3月31日まで) |
高校卒業まで (18歳に達する日以後の最初の3月31日まで) |
所得制限(収入目安) | 約960万円未満(夫婦+子供2人の場合) | 約365万円(子供+大人1人の世帯の場合) |
支給月額 |
3歳未満:1万5000円 3歳以上~小学生:1万円(第三子以上は1万5000円) 中学生:1万円 ※所得制限限度額以上の場合は、特例給付として月額一律5,000円 |
子供1人目所得に応じて4万2910円~1万120円 子供2人目は1万140円~5070円を加算 子供3人目以降は6080円~3040円を加算 |
児童扶養手当をもらうには?
児童手当がほぼすべての家庭が対象なのに対して、対象が限られている児童扶養手当ですが、ふたり親でも支給対象になるケースや、ひとり親でも支給されないケースもあります。さらに条件ごとの所得制限、実際の支給額などを詳しく見てみましょう。
児童扶養手当の支給対象になる家庭は?
児童扶養手当は主にひとり親家庭を対象にしています。ただし、平成24年8月からは離婚していなくても、ママ(パパ)がパパ(ママ)のDVなどから逃げて保護されている場合にも支給されるようになりました。支給対象となるのは子供が下記のケースに該当する場合です。実際の受給者は、9割以上が母子家庭となっています。(平成29年度厚生労働省発表資料より)
- 父母が婚姻を解消した児童
- 父または母が死亡した児童
- 父または母が一定程度の障害の状態にある児童
- 父または母が生死不明の児童
- 父または母から1年以上遺棄されている児童
- 父または母が裁判所からのDV保護命令を受けた児童
- 父または母が1年以上拘禁されている児童
- 婚姻によらないで生まれた児童
- 遺児などで父母がいるかいないかが明らかでない児童
一方で、ひとり親家庭であっても、事実婚関係にあって夫婦で子供を養育している場合や、子供が海外に住んでいる場合などには支給されませんので注意しましょう。対象家庭であっても児童扶養手当が支給されないのは、以下の通りです。
- 児童が請求者の配偶者(事実上の婚姻関係にある者も含む)に養育されている
- 児童が児童福祉施設などに入所している
- 児童が里親などに委託されている
- 手当を受けようとする人、対象となる児童が日本に住んでいない
- 2019年11月分の児童扶養手当の支給を受ける父または母
- 基準日(2019年10月31日)において、これまでに婚姻(法律婚)をしたことがない
- 基準日(2019年10月31日)において、事実婚をしていない方または事実婚の相手方の生死が明らかでない
児童扶養手当はいくらもらえる?
児童扶養手当の支給額は、月額4万2910円~1万120円(1人目)と幅があり、働くことで収入が増えるにつれて、児童扶養手当を加えた総収入が増えるよう10円刻み調整されています。2人目の場合には、さらに月額1万140円~5070円、3人目以降は6080円~3040円が加算されます。
近年では貧困問題の深刻化を受けて、児童扶養手当は拡充される方向になっています。平成28年度には第二子・第三子の支給額が引き上げられ、平成30年4月からは、全額支給の所得制限限度額(子供が1人の場合)が年収130万円から160万円に引き上げられました。
支給額の算出に使われるのは、パパやママの所得と扶養する子供(親族)の数です。所得とは、収入から各種控除額を引いた金額。会社員の場合には、年末に配布される源泉徴収票「給与所得控除後の金額」の欄をチェックしてみましょう。
さらに養育費を受け取っている場合には、収入に養育費の8割相当額が加えて計算されます。かなり複雑な計算式になるので、正確の支給額はお住まいの自治体に問い合わせるのがいちばんですが、シングル家庭でのおおまかなモデル支給額は以下の通りです。
児童扶養手当の支給月額(母または父と子供1人の場合)
収入モデル | 支給月額目安 |
---|---|
160万円 | 42,910円(全部支給) |
200万円 | 36,710円(一部支給) |
250万円 | 28,690円(一部支給) |
300万円 | 20,660円(一部支給) |
365万円 | 10,120円(一部支給) |
365万円以上 | 支給なし |
児童扶養手当の支給回数は2019年11月~年6回に
児童扶養手当は、毎月支給されるのではなく一定の期間分がまとまって支給されます。これまでは、年3回にわけてそれぞれ4ヶ月分が支給されていました。しかし、まとまった支給では家計のやりくりが難しかったり、申請のタイミングによっては支給まで数ヶ月間は手当が支給されないなど、使い勝手が悪いものでした。
このため、「児童扶養手当法」の一部を改正し、2019年11月から奇数月の年6回(1月・3月・5月・7月・9月・11月)、それぞれ2ヶ月分が支給される方法に変更されました。支給回数が増えたことで、利便性の向上や家計の安定という効果が期待されます。なお、支給回数の調整により、2019年11月分は8月分から10月分の3ヶ月分の支給となっています。
2020年1月 未婚のひとり親世帯には特別給付金1万7500円が支給
児童扶養手当の支給を受けている家庭のうち、未婚のひとり親家庭には、2020年1月分の児童扶養手当に加えて、1万7500円の臨時・特別給付があります。対象が未婚のひとり親家庭に限られるのは、離婚や死別など婚姻歴のあるひとり親家庭との税制上の不公平を是正するためです。
背景にあるのは税制上の2つのしくみです。一つ目は、法律婚を経て離婚・死別した人に適用される寡婦(夫)控除が、未婚の人には適用されない点。二つ目は、婚姻歴があり年収204万円以下のひとり親家庭は、住民税が非課税なのに対し、未婚のひとり親には適用がない点です。
臨時・特別給付は、2019年10月の消費税増税に伴う負担を補う目的で、2020年の1月分の児童扶養手当とともに1回限りで支給されます。金額は子供の人数に関わらず1万7500円です。支給は児童扶養手当とは別に申請が必要なので注意しましょう。
臨時・特別給付金の対象者
※支給対象者が2019年10月31日の翌日以後に死亡した場合は、児童扶養手当の対象となる子供に給付金を支給されする。
児童扶養手当を受給するときの注意点
母子家庭をはじめとしたひとり親家庭にとって、とても助かる制度の児童扶養手当ですが、支給が決まった後も注意する点があります。
児童扶養手当の支給から5年で支給額は見直し
「児童扶養手当」は、制度がスタートした当初は母子家庭などの経済的な支援を目的とされていましたが、現在では「自立に向けた支援」に方針転換されています。現在の児童扶養手当は、「離婚等による生活の激変を一定期間緩和するための給付」と位置づけられています。
このため、児童扶養手当を受給開始してから5年、または手当の支給要件に該当した日(シングルになった日)から7年を経過すると、翌月の手当から支給手当額の2分の1が支給停止となります。(3歳未満の児童を育てている場合は、3歳までの期間は5年の受給期間に含めません)
ただし、見直しの時点ですでに働いていたり、求職活動をしている、障害・病気・親族の介護などで働くことが難しい場合には、以前と同じ支給額が継続されます。2018年時点では全受給者に対して、0.3%(約3000人)が支給額見直しとなっています。見直し対象時期には、「一部支給停止適用除外届」の提出とその証明書類の提出が必要になるので、注意しましょう。
公的年金と児童扶養手当の同時支給は申請が必要
児童扶養手当と遺族年金などの公的年金は、「一定の所得保障」という目的が重なることから、公的年金と児童扶養手当は同時支給されません。しかし、児童扶養手当よりも公的年金のほうが支給額が低いにもかかわらず、年金をもらっているために児童扶養手当が支給されないことが問題になりました。
そこで、2014年からは年金額が児童扶養手当額を下回る場合には、その差額分の児童扶養手当を受給できるよう児童扶養手当法が改正されています。しかし、差額分の支給を受けるには申請が必要です。遺族年金の支給を受けている場合や、祖父母が子供を養育していて老齢基礎年金・老齢厚生年金などの支給が始まる場合には、在住の市区町村に必ず相談しましょう。
児童扶養手当は母子家庭の命綱
児童扶養手当は、貧困状態の母子家庭や父子家庭、離婚を考えているママにとっては心強い存在です。一方で、支給を受ける際に「交際相手がいないことを証明する」「なぜ未婚シングルマザーとなったのか説明文を提出させる」など、プライバシーを侵害するような調書が自治体ごとに作られていることも問題になっています。また、過去には独身男性も同居するシェアハウスに入居したシングルマザーが、事実婚を疑われて支給停止になった例などもあります。児童扶養手当の支給について困った場合には、母子家庭やひとり親家庭を支援する団体などに相談してみてくださいね。