2020年4月~大学無償化で拡充される給付型奨学金 所得制限や学力要件を解説
目次
大学無償化は2本立て
2020年4月から少子化対策の目玉政策として、いよいよスタートする大学無償化。正式な名称は「高等教育の就学支援制度」と言います。経済的な理由で進学をあきらめていた低所得層に向けて、高等教育(大学・短大・専門学校など)の進学を後押しするものです。
この制度は学費をサポートする「授業料等の減免」と、住居費や教材費などの生活費をサポートする「給付型奨学金の拡充」の2本柱で構成されています。
今回は、学生の生活を支える「給付型奨学金」について支給条件などを詳しく見てみましょう。
給付型奨学金とは?
「給付型奨学金」とは、返済不要の奨学金のことです。2017年までは、利子のない「第一種奨学金」と、年3%程度の利子がつく「第二種奨学金」しか日本にはありませんでした。どちらも返済義務があるうえに、第一種奨学金は支給上限額が少ないため、第二種奨学金と併用する学生が多いのが実情です。このため2010年ごろからは、雇用状況の悪化や平均給与の停滞により、奨学金の延滞や返済不能が社会問題化。こうした背景から、2017年にようやく返済不要の給付型奨学金が作られたのです。
学費の高騰などにより現在では、大学などの高等教育機関の学生348万人のうち、37.2%(129万人)が奨学金を利用しており、学生2.7人に1人というほど増えています。(平成29年度・JASSO資料より)
今までの給付型奨学金との違い
2017年にようやく創設された給付型奨学金ですが、初年度は試験的実施で約2500人、2018年度以降は約2万人と全体の約1.5%程度の狭き門でした。給付額も少なかったため実際には第二種奨学金などを併用するしかなく、低所得層への支援としては物足りないものでした。
2020年4月から始まる高等教育の修学支援新制度では、この給付型奨学金がかなり拡充されます。所得制限や成績要件、人数制限などを大きく緩和して、支給月額も大幅にアップします。
給付型奨学金の新旧比較
before | after | |
---|---|---|
所得制限 | 住民税非課税世帯 | 住民税非課税世帯と準じる世帯 |
成績要件 | 成績優秀者に加え学校からの推薦が必要。各校数名程度の制限あり。 | 評定平均3.5以上またはそれ以下であっても、学習意欲があると判断されればOK。人数制限はなし。 |
支給月額 | 2~4万円 | ~7万5800円 |
支給額は大学が公立か私立か、自宅から通うかどうかなどで変わる
高等教育の修学支援新制度では、給付型奨学金と同時に「授業料等の減免」を利用することができるので、給付型奨学金は学生の生活費(住居費や教材費など)に充てられるものです。実際の給付額は下記の表を確認してください。4万円が最大月額だった2019年度以前よりも、月額がかなり増えています。ただし、これは住民税非課税世帯に給付される最大月額であることに注意しましょう。
新しい給付型奨学金の最大月額
国公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|
自宅通学 | 下宿 | 自宅通学 | 下宿 | |
大学・短大・専門学校 | 29,200円(33,300円) | 66,700円 | 38,300円(42,500円) | 75,800円 |
高等専門学校 | 17,500円(25,800円) | 34,200円 | 26,700円(35,000円) | 43,300円 |
※生活保護世帯で自宅から通学する人及び児童養護施設等から通学する場合は、カッコ内の金額。
給付型奨学金の年収要件
2020年から始まる高等教育の就学支援制度では、授業料等の減免とともに給付型奨学金が大幅に拡充され、「住民税の非課税世帯に準ずる」世帯まで対象者が増えます。しかし対象者が増えてもすべての世帯に満額支給されるわけではなく、年収に応じて支給割合が変わってきます。具体的にどの程度の年収なら満額支給が受けられるのか見てみましょう。
年収によって満額・2/3・1/3の3段階で支給
給付型奨学金が上記の満額支給されるのは、住民税非課税世帯のみです。支給額は年収に応じて、満額・支給上限額の2/3・支給上限額の1/3と段階的に減らされていきます。それぞれ年収の目安はひとり親の場合や子どもの数によって変わってきます。おおまかな年収モデルは下記の表を参考にしてみてください。
所得基準に相当する目安年収例
世帯の構成 | 支援上限額まで受けられる年収例 | 上限額の2/3まで支援が受けられる年収例 | 上限額の1/3まで支援が受けられる年収例 | |
---|---|---|---|---|
ふたり親世帯※片働き(一方が無収入) | 子1人(本人) | ~約220万円 | ~約300万円 | ~約380万円 |
子2人(本人・中学生) | ~約270万円 | ~約300万円 | ~約380万円 | |
子3人(本人・高校生・中学生) | ~約320万円 | ~約370万円 | ~約 430万円 | |
子3人(本人・大学生・中学生) | ~約320万円 | ~約400万円 | ~約460万円 | |
ひとり親世帯(母のみが生計維持者の場合) | 子1人(本人) | ~約210万円 | ~約300万円 | ~約370万円 |
子2人(本人・高校生) | ~約270万円 | ~約360万円 | ~約430万円 | |
子3人(本人・高校生・中学生) | ~約270万円 | ~約360万円 | ~約430万円 | |
子3人(本人・大学生・中学生) | ~約290万円 | ~約390万円 | ~約460万円 |
年収に応じた支給割合がわかったら、次は実際の支給額を見てみましょう。
支給割合に応じたの給付型奨学金の最高月額の推移(編集部推計)
国公立 | 満額 | 2/3 | 1/3 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
自宅通学 | 下宿 | 自宅通学 | 下宿 | 自宅通学 | 下宿 | |
大学・短大・専門学校 | 29,200円(33,300円) | 66,700円 | 19,467円 | 44,467円 | 9,733円 | 22,233円 |
高等専門学校 | 17,500円(25,800円) | 34,200円 | 11,667円 | 22,800円 | 5,833円 | 11,400円 |
私立 | 満額 | 2/3 | 1/3 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
自宅通学 | 下宿 | 自宅通学 | 下宿 | 自宅通学 | 下宿 | |
大学・短大・専門学校 | 38,300円(42,500円) | 75,800円 | 25,533円 | 50,533円 | 12,766円 | 25,2667円 |
高等専門学校 | 26,700円(35,000円) | 43,300円 | 17,800円 | 28,867円 | 8,900円 | 14,433円 |
保有資産にも条件あり
高等教育の就学支援制度の対象となるには、所得制限のほかに保有資産の制限があります。世帯の資産が2000万円以上(生計維持者が1人のときは1250万円以上)の場合には、支援の対象外となるので注意しましょう。なお、資産とは銀行預金や有価証券などを言い、土地などの不動産は含まれません。
新型コロナウイルスの影響などで家計が急変した場合も申請可能
2020年3月26日に文部科学省から、新型コロナウイルス等によって急に世帯の収入が減るなど「家計が急変」した場合への救済策としてお知らせが発表されています。本来、大学無償化の対象は前年度の収入によって決まりますが、保護者の病気や事故、失業や災害などによって家計が急変する場合には、家計状況が変更したあとの所得を基準に年間所得を推計し、大学無償化の対象とします。
なお、本来は毎年4月と10月に限定されている申請申し込みも「家計の急変」の場合には、急変事由の発生後3カ月以内に随時申し込みが可能です。また、支給開始のタイミングも同じく4月と10月が基本ですが、家計の急変の場合には認定後に速やかに支給となっています。現在は対象外であっても、大学無償化の対象となる学生もいるので、急な家計の悪化で困っている場合には進学をあきらめずに調べてみてください。
新型 コロナウィルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ(文部科学省)
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