子供のネグレクトの現実。原因から見るネグレクトへの対処方法について
ネグレクトとは?
ネグレクトとは、無視、放置するという意味があり虐待用語として使われています。養育や支援が必要な人を放置してその人が必要とするものを与えない虐待行為です。食事を与えない、不潔な環境、家に閉じ込める、車に放置する、医者に連れて行かないなどです。当たり前に受けることができると思われている行為を受けられないことです。ネグレクトは、障がい者や高齢者、ペットにもあてはまります。こちらでは子供にスポットを当てて説明していきます。
ネグレクトの件数推移
厚生労働省が発表している速報値によると、平成29年度に児童相談所が対応した児童虐待相談件数は133,778件で過去最多となりました。虐待の内容は、心理的虐待が最も多く、続いて身体的虐待、次いでネグレクトとなっています。ワーキンクグループ(第4回)資料によると児童相談所の児童虐待相談対応件数は、平成11年度に比べて約11.5倍増加しています。また、児童虐待によって子どもが死亡した件数も高い水準で推移していることがわかります。平成28年度データによると、虐待を受けた子供の年齢は小学生が32.8%と最も多く、小学校入学前の子どもの合計数は51.7%となっており、自分から逃げる事が難しい、本来なら守られなければならない年頃に起きている虐待件数が多い事が確認でき、問題の深刻さがわかります。
ネグレクトを受けた子供の特徴
ネグレクトを受けた子供は、自己否定するようになり精神的に不安定な状態になります。自分の感情をコントロールする力や他人を信頼する力が育たない傾向があり、その後の成長や将来に大きな影響を及ぼしてしまいます。親から当たり前に受ける事ができる愛情を受けられなかったことで、自分が悪かったのではないだろうかなどの意味のない罪悪感に苛まれます。感情表現の仕方を教えてもらう事がなかったため、他人とのコミュニケーションに問題が生じやすいです。他人とどう接したらいいのか、わからない子も多いので「助けて」と言えないのです。
ネグレクトが起こる原因とは
最近では、ホルモンなどの物質のはたらきを調べることによって虐待やネグレクトが発生する研究がされています。ネグレクトは1つのことが原因ではなく、育児環境やいろいろな要因が重なっていることから、多数の専門分野の視点から考えなければならない問題です。
育児に対するストレス
今の現代社会は核家族化していて、子育て環境が一人の負担にのしかかりやすい傾向にあります。いわゆる「ワンオペ育児」です。頼れる人がいないなかでの育児はストレスがかかります。一人で抱え込んでいると正常な判断ができなくなり、やがて限界がやってきます。そうなる前に、辛い時は周囲にSOSを出しましょう。
子供への愛着が持てない
親は子供を24時間365日全力で愛するもの、特にママはそうあるべきだという間違った考えが信じられています。すべての親は、自分の子供をかわいがると思われていますが、必ずしもそうではありません。特に理由もないのに、かわいいと思えない人も少なからず存在します。そういう人が全員育児放棄するとは限らず、良いパパママを演じているケースもあるのです。親も人間ですから子供との相性もあります。愛情の持ち方や感じ方は人それぞれで比べるものではありません。真面目な人ほど考え込んでしまい自分を追い詰めてしまいますが、自分なりの子供との距離感を見つける事ができれば、少しは気が楽になります。
ひとり親家庭
貧困とネグレクトには関係性が指摘されています。すべてのひとり親家庭に当てはまることではありませんが、ひとり親家庭の平均年間収入額が低い傾向にあることから、家族や親族からのサホートを受けていない孤立状況の中で子育てをしているケースがあることも事実で、そのような状況からネグレクトや虐待をする状況に追い込まれてしまう傾向も考えられます。行政に頼ることも一つの手段です。
相談できる相手がいない
ネグレクトや虐待をしてしまう人は、いろいろな理由で自我が育っていないため、社会とコミュニケーションを取ることができない、困っているときに困ったと言えない人たちも少なくありません。相談相手がいないため、行き詰まってしまうと逃げだしてしまう事があるのです。
過去にネグレクトを受けていた
自分がネグレクトを受けていた人は、当たり前のように受ける愛情や感情表現の方法を教えられないまま成長してしまうため、自分の子供をどのように育てたらいいのか分からないことがあります。ネグレクトされた人のすべてが自分の子供にネグレクトを行うことはありませんが、なんらかの関連があり根深い問題ではないでしょうか。
身近な事例でネグレクトを学ぶ
ネグレクトが起こっている現場では何が行われているのか。ニュース等で報じられているので少しは聞いた事もあるでしょう。いくつかのネグレクトの事例を紹介します。
ネグレクトがテーマの映画
ネグレクト、児童虐待がテーマになっている映画をご紹介します。映画の内容から、すべての人にお勧めできる内容ではありません。ですが、映画を鑑賞した後、もしかしたら近くに苦しみを抱えている子供がいるかもしれないと、少しでも考えるきっかけになればと思います。
「わたし、生きてていいのかな」
映画「わたし、生きてていいのかな」は、現実で起こっている社会的養護の背景と現状を描いた内容になっています。一見するとドキュメンタリーのようにみえますが、フィクションです。今の子供たちを取り巻く問題と、その子どもたちを救い守ろうとする活動を知ってもらい、気づきのきっかけになってほしいという思いが込められています。なお、この映画は収益を上げることを目的としていないため鑑賞料は無料で各地で上映会が行われています。(※会場によっては1ドリンク代500円がかかる場合もあります)
「子宮に沈める」
映画「子宮に沈める」は、実際にあった大阪二児餓死事件を取り扱った実話を元に創られています。ネグレクトが原因となった悲惨な事件で、当時は連日マスコミにも取り上げられネグレクトを行なった母親への猛烈な非難が集まりました。母親だけが悪いのでしょうか?最初にこの母子を捨てた父親の責任は?この問題の背景には根深いものがありとても考えさせられる映画となっています。
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「誰も知らない」
映画「誰も知らない」は、巣鴨子供置き去り事件の実話を元に創られた人間ドラマになっており、母親に捨てられ社会から隔絶された4人の子供たちが描かれています。是枝裕和監督の代表作であり、柳楽優弥さんのデビュー作でカンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を14歳で受賞し、他にも国内外の映画賞を多数獲得したことで有名な映画です。
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ネグレクトの事件
悲惨で残酷極まりないネグレクトによる事件は後を立ちません。子供に罪はないはずなのにどうしてこのような事が起こるのでしょうか。すべてが痛ましい事件であり、第三者が子供のSOSに気付いてやれはしなかったのか、もっと早く助けられなかったのか、悔やまれる事件です。最近起こった事件を上げていきます。
札幌女児衰弱死事件
2019年6月に起きた事件です。北海道札幌市で池田詩梨(ことり)ちゃん(2)が衰弱により亡くなりました。母親と交際相手が詩梨ちゃんを暴行し食事を与えず衰弱させ死亡させました。この事件では複数回にわたり虐待通告があったにもかかわらず、しかるべき対応がされていませんでした。対応されていなかった件について、札幌市の児童相談所と北海道警察、両方の言い分が食い違っています。
目黒女児虐待死事件
2018年3月に発生した事件です。東京都目黒区で父親と母親から虐待を受け船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5)が亡くなりました。結愛ちゃんの体重は死亡時、同年代の平均体重約20キロを大きく下回る12.2キロでした。2人は結愛ちゃんに十分な食事を与えずに衰弱させ、虐待の発覚を恐れて病院も受診させずに放置して死亡させました。現場からは「もっとあしたはできるようにするからもうおねがいゆるして」などと書いたノートも見つかりました。結愛ちゃんは毎朝4時ごろに起きて平仮名の練習をさせられていたそうです。以前に児童相談所にも通報があったそうですが、一時保護の必要はないと判断して放置していました。
埼玉女児虐待死事件
2016年1月に発生した事件です。埼玉県狭山市で実母と内縁の夫から虐待を受けて藤本羽月(はづき)ちゃん(3)が亡くなりました。羽月ちゃんの体には顔のヤケド以外にも複数の外傷があり、日常的に虐待が加えられていた可能性があったことから、現場に駆けつけた消防署隊員が警察に通報し事件が発覚しました。食事を週5回抜いたり、お風呂場で羽月ちゃんの顔に高温のシャワーをかけて皮膚が剥けるひどいヤケドを負わせ、病院に連れていくと虐待が発覚するからと治療を受けさせず放置しました。そして全裸の羽月ちゃんに冷水をかけ放置、敗血症で死亡させました。なお、過去に2回、近所のからの通報で狭山署警察官らが現場を訪問していましたが、その時は特に虐待があるようには見受けられなかったため、児童相談所には通告されていませんでした。
ネグレクトをしないための対策
ネグレクトや虐待を防ぐ一番の方法は、始まる前に阻止することです。そのためには、親を支援して養育方法を教えるプログラムがとても重要です。厚生労働省では児童虐待防止対策にむけていろいろな取組が行われています。
地方自治体の相談窓口を利用する
子育てで悩みがあり誰にも相談できない時は、住んでいる市町村の児童相談所までご相談ください。相談に関する秘密は守られます。
全国共通ダイヤル:189(はやく)
児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」へかけると自動的に住んでいる地域の児童相談所につながります。親がsosを出すときにも利用できますし、虐待かも?と疑われる時にも連絡する事ができます。
相談できる人を作る
身近に相談できる人がいたらいいのですが、難しい場合は行政の相談窓口を利用しましょう。人は話すだけでも心が落ち着くものです。相談窓口に連絡すると専門家が話してくれますし、状況によっては行政の支援が受けられることもあるので利用しましょう。
夫婦で相談する機会を持つ
パパは仕事で忙しいから子育てはママが行なっている、または逆の事例もありますが、子供は二人の子供です。それぞれが役割分担して育児を行う事が理想ですが、必ずしも理想通りにはいかずに難しいこともあります。片方の限界が来る前に話し合いましょう。子供がいるのでなかなか話し合いの機会がもてない時は、子供を一時預かってくれる行政サービスを利用することもできます。
危ないと感じた時には子供と距離を取る
幼い子供にも自我があります。ずっと子供と過ごしていると時にはイライラしてしまうこともあります。そんな時は少し子供と離れてみる事をお勧めします。子供がまだ小さすぎて目が話せない時は、子供を一時預かってくれる行政サービスを利用してみるなど、いっ時でもいいので距離をとると落ち着いて考えられるようになりますよ。
子供に完璧を求めない
子供には個性があり、成長する速度もそれぞれ違います。その子に合わせて成長していくものなので、あまり慌てずに見守るようにしましょう。この時期はこれができていなければならない等、周りのデータに囚われすぎないようにしてください。子育てに完璧を求めすぎると自分を追い込んでしまうことになりかねないので、気楽に構えておきましょう。
親も子供と一緒に成長する意識を持つ
初めてのお子様であればパパママも子育て初心者なんです。子供が年を重ねるごとにパパママの経験値も上がっていきます。初心者ですから、できないことがあって当たり前です。子供の誕生日はパパママの子育て年数を重ねた記念日でもあります。「よくがんばった」と親である事をがんばった自分を褒めてあげましょう。そして、子供と一緒に親である自分も成長していきます。子供が10歳になる頃には10年分の経験値がある親になっていますよ。
まとめ
子育てはいろいろと行き詰まる事があっても、なかなか相談できない時もあります。行政サービスを利用することも考えてみてもいいかもしれません。子供にイライラしてしまった、そんな時は、少し深呼吸をしてみましょう。焦らずにゆっくりといきましょうね。